A.
歯並びを改善することは、よく噛めるようになるだけではなく、より魅力的な笑顔を得ることができ、前向きに進んでいく人生にとっても、さらに社会的にも有利になるのではないかと考えます。
一昔前までの我が国では、"八重歯がかわいい"など悪い歯並びも個性と考えられていましたが、最近では歯並びやそれに伴う顔貌が個人のコンプレックスの一因となったり、歯並びが悪いことできれいに清掃することが難しく、虫歯や歯周病にかかりやすいといったことから、歯並びに関して関心を持っておられる方が増えてきています。
一方、矯正治療するためには装置をつけることが必須となりますが、一部の映画などにおいて矯正装置をつけていることが"奇妙"の象徴のように描かれてきたことなどから、皆様は矯正歯科治療に対してかなりマイナスイメージを持たれていたのではないかと思います。
しかしながら、最近では目立たない装置や歯の裏側からする装置などが出てきたことより、治療中の審美性についてはかなり改善されてきています。また、テレビでも芸能人やミュージシャン、スポーツ選手などが矯正治療をして、装置をつけたままで活動を行っているのを見る機会が増えました。
このようなことから、皆様の矯正歯科治療に対する意識というのは、以前とは比べものにならないくらい向上しているのではないかと考えております。
A.
歯を抜くか抜かないかは、初診時あるいは二期治療前にとらせて頂くレントゲンや歯型などの資料をもとに診断し、判断させて頂きます。
歯は骨の上に並んでいます。骨に対して歯の大きさが大きい、あるいは歯に対して顎の大きさが小さい場合はガタガタな歯並びになってしまいます。前者では歯を削れば並ぶのかも知れませんが、矯正歯科治療では歯が大きいからといって歯を削ることは極力致しません。わずかに削る場合はありますが、1歯について 0.2~0.3 mm程度です。後者については、成長期(子供の頃)であれば顎を拡大することで改善する場合もありますが、拡大にも限界があります。このような治療を行った上でまだガタガタが残っている、あるいはガタガタが残ると予想されるにもかかわらず、歯を抜かずに土台となる骨の上に無理矢理歯を並べようとすると、骨の上に歯がおさまりきらずに不安定なかみ合わせを作ってしまうことになってしまいます。このような場合には歯を抜く必要があります。
また、口元が出ていることを気にされている場合は、ガタガタがなくても口元の突出感を改善するために歯を抜くことが必要になります。
ですから必要に応じて歯を抜くこともありますし、抜かなくていい場合ももちろんあります。
子供のときから矯正歯科治療を行うと、成長のコントロールや乳歯から永久歯への生えかわりがうまくいくように誘導することができるので、絶対的ではありませんが抜かなくて済む可能性は高くなります。
A.
矯正歯科治療のために抜く歯は第1小臼歯(前から数えて4番目の歯)が多いのですが、これらを上下左右抜くと、もとよりも4本も歯が少なくなってしまいます。
しかしながら、この歯は鏡で見て頂くとわかるのですが、隣の第2小臼歯(前から数えて5番目の歯)とほとんど同じ形をしています。
前歯はものを噛み切る機能があり、奥歯はものをすり潰す機能がありますが、その中間地点にある小臼歯はこれらの機能の移行部にあり、同じ形態の歯が上下左右2本ずつあるので、そのうちの1本がなくなっても噛む能力には大きく影響しないことがわかっています。
A.
矯正歯科治療でよく誤解されるのが治療期間です。だいたい1年半~2年と聞かれることが多いと思いますが、これは成人の方のいわゆる二期治療(後ほど述べます)において、歯の表面に装置をつけている期間です。すなわち装置を使って積極的に歯を動かしている期間のことです。
治療期間については正しく理解して頂く必要がありますので、少し詳しく述べさせて頂きます。
子供のときから始めるか大人になってから始めるかで当然治療期間が異なります。
矯正歯科治療は大きく分けて、動的治療(歯を積極的に動かす治療)と静的治療(動かした歯が元に戻らないようにとめておく治療)があります。また、動的治療は一期治療と二期治療に分かれます。
静的治療については後ほど述べるとして、まずは動的治療について述べたいと思います。
[一期治療について]
一期治療とは子供のとき(永久歯と乳歯が混在している時期)に行う治療です。この段階では歯並びをきれいにするというよりはむしろ、乳歯から永久歯の生えかわりをうまく誘導してあげたり、顎の成長をコントロールしてあげたりする時期です。ですから、すべての歯が永久歯に生え変わり、成長が終わるまで定期的に治療と観察を行っていかなければなりません。
一期治療はだいたい6歳臼歯(第1大臼歯)と永久歯の前歯が生えてくる6歳前後から始めるのが一般的ですので、それから12歳臼歯(第2大臼歯)が生えてくる7年間くらいかかります。しかしながら、この間、ずっと毎月来院するわけではなく、2, 3ヶ月に一回のペースで来院して頂く時期もありますし、観察の時期では3ヶ月~半年に一回のペース(春休み、夏休み、冬休みなどの大きな休みごとなど)で来院して頂きます。ですから、期間は長いのですが、来院回数は想像されているよりはずっと少ないと思われます。
永久歯列になり、成長も落ち着いた頃から二期治療へと移行していきます。
※受け口の場合はもう少し早くからの治療をお薦めします。
[二期治療について]
二期治療とは、一期治療が終わった段階で再度診断を行い始めていく治療、あるいは永久歯に全部生えかわってから始められる方が行う治療です。
具体的には、歯の表面にブラケットという装置をつけて、ワイヤーを使って1本1本の歯をきれいに並べていく治療です。
この治療に冒頭で述べましたように1年半~2年という期間がかかります。どうしてこのような長期間かかってしまうかと申しますと、ガタガタの歯がきれいに並んでいくときに歯は骨の中を移動するのですが、このかたい歯がかたい骨の中を移動するのに時間がかかってしまうからです。
歯は骨の中に埋まっていますが、歯の骨に埋まっている部分は歯根(しこん)と呼ばれています。例えば、歯に一方から力を加えますと、歯根の一方は圧迫されるのですが、圧迫された側の歯根は骨を吸収していきます。一方、反対側では隙間があいてくるのですが、このときに骨の添加が生じます。このような骨の吸収と添加を繰り返しながら、歯は骨の中をドラマチックに移動していくのです。このときにあまり強い力を加えますと、骨ではなく歯根が吸収されてしまうため、適正な弱い力をかけていく必要があり、時間がかかってしまうのです。
最後に静的治療についてですが、これは先程も述べましたように、動かした歯をとめておく治療で、"保定"と呼ばれています。もしこの"保定"を行わないと、せっかく移動した歯は元の位置に戻ろうとします。これは"後戻り"と言われています。ですから、"後戻り"しないように、動的治療が終わった後で、その位置に歯をとどめて周囲の組織となじませる必要があるのです。
この"保定"には、二期治療期間と同じくらいかそれより少し長めの約2~3年の期間が必要になります。しかしながら、この期間は、歯の裏側につける装置か、取り外しできる装置を用いますので見た目にはほとんど問題ありません。保定時の来院間隔は3ヶ月~半年に一回程度なので来院回数はかなり少なくなります。この"保定"が終わって初めて矯正歯科治療の終了ということになります。
以上のことから、来院しなければならない期間というのは長くなりますが、来院回数は想像されているよりは少ないものと思われます。
A.
(1)早期に(5、6歳)治療を開始した方がいいのは以下の場合です。
≪1≫そのままにしておくと歯列不正が悪化する。
≪2≫原因を除去することにより不正の改善が容易にできる。
≪3≫顎の成長をコントロールする必要がある。
(2)それ以外の場合は、永久歯がはえそろい始めた小学校高学年から中学生くらいから始めるのがよいよいでしょう。
(3)もちろん、大人の方でも歯と歯ぐきが健康であればおいくつになっても治療は可能です。詳しくはご相談下さい。
A.
矯正歯科治療には多かれ少なかれ痛みを伴います。その痛みは大きく分けて2種類あると考えられます。一つは『装置による痛み』、もう一つは『歯が移動するときの痛み』です。
(1)装置による痛み
通常、歯の表面は平らですが、矯正歯科治療にあたり歯の表面に突起物(装置)がつきます。それが唇や舌に擦れて口内炎ができたりすることがあります。この痛みにつきましては、突起物を覆うようなワックス(透明な粘土のようなもの)をお渡しして対処して頂いております。しかしながら、時間が経ちますと慣れてくるようで、頻繁に口内炎ができることも少なくなります。
(2)歯が移動するときの痛み
治療中、歯には持続的に弱い力を加えるのですが、このときに痛みとともに歯がグラグラと動揺することもあります。この痛みは調節に来られた日から3~5日の間がとくに辛いようです。この間はかたい食べ物を力強くかむことは難しいと思われます。しかし、その後はあまり気にならなくなります。さらに、治療が進んでいきますと痛みの程度や期間は徐々に減少していきます。
A.
これにつきましては、[管楽器奏者のための矯正治療」をご覧下さい。
当院では、ブラケットとワイヤーを覆って、唇に当たらなくするような"リッププロテクター"をご用意しております。
右(リップ プロテクター)
A.
6歳頃に上の真ん中の歯が永久歯にはえかわりますが、正面から見て左右に広がるように萌出し、真ん中に少し隙間ができます。その後、その両隣の永久歯が萌出してくるときにこの隙間は減少し、10~11歳くらいに犬歯(糸切り歯)が萌出してくるときに完全に閉じてきますので異常なことではありません。
ただし、上の2本の前歯の間に過剰歯があったり、上唇小帯(上唇をめくったときに見られる筋のようなもの)が大きかったり、隣の永久歯が先天的に欠損しているときには、永久歯に生え代わっても隙間が閉じない場合がありますので一度歯科医院にご相談下さい。
A.
6歳頃に上と下の前歯が萌出してきますが、この時期は個人差がありますので、萌出の途中の段階かも知れません。
しかし、この時期に上下の隙間に舌を出す癖ができてしまいますと、上下の前歯は空いたままの状態(開咬)になってしまいます。
なかなか上下の前歯が噛んでこない場合には、一度歯科医院にご相談下さい。
A.
通常呼吸をするときは鼻で呼吸をしていますが、気道が狭い、あるいは鼻がつまりやすいお子様は鼻呼吸が困難で、口呼吸になってしまうことがあります。このような場合、口をポカンと開けている時間が長くなります。歯列は、唇、舌、頬の筋肉のバランスがうまくとれていますときれいなU字型を呈しますが、口呼吸のために唇を閉じる力が弱くなりますと、唇で歯列を内側に押さえる力がなくなり、相対的に舌が歯列を前に押す力、頬が歯列を内側に押す力が強くなり、歯列がV字型に近い形態になってくることがあります。
また、異常嚥下癖(嚥下するとき、舌を前に出して唾を飲み込む癖)や舌突出癖が同時に生じてくることもあります。
鼻呼吸がちゃんとできていますと、外からの空気が鼻毛のフィルターで浄化され、きれいな空気が体の中に入ってきます。
一方、口呼吸ですと外からの雑菌を含んだ空気が直接喉に入ってきますので、風邪をひきやすくなったり扁桃腺が腫れやすくなったりする場合もあります。また、口の中が乾燥しやすく、唾液による自浄作用が弱まるため、虫歯になりやすかったり、お茶などの茶渋による着色が生じやすい場合もあります。
A.
唾や食べ物を飲み込むことを嚥下といいます。乳歯がはえそろう2歳くらいまでは舌を前にだして上下の唇の筋肉を収縮させて行う幼児型嚥下、2歳半くらいからは舌を上顎に押しつけたまま、奥歯は軽く噛んだ状態で行う成熟型嚥下へと変化していきます。
乳歯がはえそろっているにもかかわらず、嚥下時に舌が前に出て、上下の歯の隙間から溢れ出してしまうのは異常嚥下癖の1つと考えられます。嚥下は一日に何度も行われますので、異常嚥下癖が毎日繰り返されますとは並びにも影響が出てきます。上下の前歯が噛まず隙間があいている「開咬」という不正歯列が生じることがあります。
最近、正しい嚥下ができないお子様が多いように見受けられますので、うまく嚥下できているか一度確かめてみましょう。
A.子供のときから始める矯正歯科治療は、顎の成長発育を利用しながら行うという点で成人の矯正歯科治療とは異なります。
不正な噛み合わせによっては、上顎や下顎の成長が抑制されたり、必要以上に助長されたりして、将来的に骨格的な不正が生じる場合もありますので、子供のときに噛み合わせの改善や顎の成長のコントロールを行うことは大切なことです。
また、口呼吸や異常嚥下癖、舌突出癖などの機能的な問題がある場合、早くから鼻呼吸、正しい嚥下、正しい舌の動きを身につけることで、歯列不正や歯列不正のさらなる悪化をある程度防ぐことができると考えられます。
成人になって確立された癖をなおすことは非常に難しいので、子供のうちに正しい呼吸、嚥下、舌の動きを身につけることをおすすめします。
ただし、機能的な問題を改善するには本人の協力が重要になりますことをご理解下さい。